Entries

農作業を手伝わない農家の子ども



                後継者問題の深刻化(3)

             ☆農作業を手伝わない農家の子ども

 1980年ころのことである、宮城県のある会議で、その委員となっている女性ジャーナリストがこう発言した。
 「最近の農家のお母さんは教育ママになって子どもたちに農業の手伝いをさせなくなった、これが農家の後継者問題を引き起こしている原因だ」
 会議の時間の関係からそれに反論することができなかったが、たまたま日本農業新聞から依頼された原稿があったので、そのことを書かせてもらうことにした。それを次に紹介させていただきたい。

 「かつて農家のお母さんは朝早くから夜遅くまで働かなければならなかった。だから子どものことなどかまってやるひまはなかった。ほっぽり投げておくか年寄りにまかせておくより他なかった。そして少しでも大きくなると手伝いをさせた。そうしたくなくともそうせざるを得なかった。そうしなかったら生きていけなかったからだ。
 ところが、最近は農家のお母さん方が子どものことをかまいすぎるようになったと、ある識者は批判する。そして『教育ママ』になって昔のように手伝わせなくなったという。それが一因となって、後継者として残らなくなったというのである。
 しかし、それでいいではないか。子どもを母親自身の手で育てたい、子どもらしく遊ばせ、勉強させてやりたいという、昔からのお母さんの願いがかなったのだ。そう願ってもできなかった昔のお母さんの口惜しさ、淋しさからようやく抜け出ることができるようになったのだ。
 それより問題なのは、農業で生活できなくさせられ、出稼ぎやマイクロバスでの日稼ぎに出ざるを得なくさせられ、教育ママになれなくさせられていることである。これに対してこそたたかい、農政を変えていくべきなのである。
 農家のお母さん、大いに教育ママになろうではないか。農家の子どもだけ手伝いをさせて勉強させなくてもいいなどということはないはずだ。十分な教育を受けさせ、幅広い知識人として育て、自らの意志で農業を職業として選択させよう。こうして育てられた幅広い教養と主体的な意志をもった後継者こそ、農業を発展させるのだ」(註)

 字数制限からそのときはこれしか書けなかったのでもう少し付け加えておきたい。
 子どもに農業を手伝わせず、農業に関心をもたせなくなったこと、農業の良さを教えなくなったことが後継者流出の原因だとその識者はいう。しかし、サラリーマンの子どもは親の手伝いをしないのにサラリーマンになっている。農業というものは手伝わせなければその良さがわからないものなのか。まだ考えの固まらない子どものうちに刷り込んでおかなければ継がないというのが農業なのか。大きくなってその良さがわかって継ぐような職業でないとしたら、そこにこそ問題があるのではないか。農家の子どもは勉強などしなくともいい、進学などしなくともいい、農業だけやっていればいいのだということなのか。これは職業による差別ではないか。
 もちろん農業を手伝わせるなと言うのではない。大いに手伝わせてよい。そして作物や家畜を育てる楽しさ、田畑の美しさを、さらには辛さも味合わせてよい。また先祖の土地に対する愛着を思い起こさせるのもいいだろう。しかし、子どもらしくたくさん遊ばせ、また勉強させてもいいではないか。
 ましてや、かつてのように子どもを労働力として、跡継ぎにするためという意識で手伝わせたりすべきではない。子どもの頃から手伝わせて農業のことを教え込み、経験を積ませ、熟練労働者にしなければやれないという時代ではもはやなくなっているからだ。農業の機械化・化学化、技術の客観化・平準化の進展のなかで、そういう必要は少なくなっているのである。
 さらに、子どもが農業に対する疑問をもつような手伝わせ方をしてはならない。たとえば、遊びたいのに、他の職業の家の子どもが遊んでいるのになぜ農家の子どもの自分だけ手伝わされるのか、こんな疑問をもたせるようなことはしてはならい。そこからさらに疑問が膨らむからだ。そういえば、親はいつも忙しい忙しいだけでいっしょに遊んでくれないし、家族旅行もしてくれない。そしていつも金がない、農業は大変だなどと愚痴を言う。こんな農業は継ぎたくない。
 このように、子ども時代に植え付けられた、そして親が増幅した農業に対するマイナスイメージが農業離れを誘発する、こんなことのないようにすべきだろう。

(註)拙稿「教育ママのすすめ」、『日本農業新聞』1981年8月15日
スポンサーサイト

コメント

コメントの投稿

コメントの投稿
管理者にだけ表示を許可する

Appendix

訪問者

カレンダー

07 | 2017/08 | 09
- - 1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31 - -

プロフィール

酒井惇一

Author:酒井惇一
元・東北大学農学部教授
元・東京農業大学生物産業学部教授
現・東北大学名誉教授

 本稿は、昭和初期から現在までの4分の3世紀にわたる東北の農業・農村の変化の過程を、私が農家の子どもとして体験し、考えたこと、また農業経営研究者となってからの調査研究で見、聞き、感じたことを中心に、記録したものである。

QRコード

QR