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じゃがバター、いも餅、かぼちゃ餅



                イモ談義(5)

           ☆じゃがバター、いも餅、かぼちゃ餅

 ジャガイモを主材料とした地域独特の料理というのはあるのだろうか。
 日本第2位の産地長崎に行ったとき、聞いてみた。とくにないという。ジャガイモではしかたがないのかもしれない。そもそもジャガイモは、肉じゃが、味噌汁、サラダ等々、まさに家庭料理の主材料になっている。だからとくに地域独特のイモ料理など考えなくともいいし、新しい料理の開発による消費拡大など考えなくともいいのかもしれない。
 と思ったのだが、考えてみたら最大の産地北海道には独特の料理として「じゃがバター」があった。
 これは有名なので説明の必要はないと思うが、ジャガイモ、バターともに北海道が大産地、この二つを使っているという点ではまさに北海道らしく、さらにきわめて単純ということでも北海道らしい。もちろん、バターばかりでなく、いかの塩辛や鮭のほぐし身、醤油、砂糖などをつけて食べることもあるそうだが、それにしてもやはり簡単にでき、いずれにせよ北海道らしいおおらかな料理ということができる。
 しかし、同じくジャガイモ料理でも少し手の込んだものがある。「いも餅」である。これは網走に住むようになってから知った。私にとっては初めての新入生のオリエンテーションで阿寒湖に行ったとき、同僚の先生が小さな土産物店に案内してごちそうしてくれたのである。ゆでたジャガイモをすりつぶして片栗粉を入れて直径五㌢、厚さ一㌢の円形にしたものをバターで焼いたものだとのことだが、その上に砂糖、醤油のようなものがかけられ、イクラが五~六粒載っており、本当においしかった。
 家に帰ってその話を家内にした。食べてみたくなった家内は、市内のお菓子屋に買いにいった。お菓子の一種だと思ったからである。そしたら、一軒目では売っていないとの返事、二軒目ではそれは家庭料理なので店では売っていないと言われたとのこと、それを知り合いの奥さん方に話したらみんなから大笑いされたという。
 いも餅は家庭料理、そもそもは米の「餅」の代用品としてつくったものらしい。餅米がつくれない北海道(もちろんそれは昔の話)、しかしジャガイモはたくさんとれる、それでいも餅をつくったのだという。
 それで思い出した。いも餅は山形の生家の祖母がよくつくってくれた「えべす(ゆべし)」のかっこうとそっくりだったことである。米の粉に醤油、味噌、砂糖を入れて煮る、それをこねて、手のひらと指で平らにしながら円形にする。だから上に三本の指の跡がついていた。あまりおいしいとは思わなかった。砂糖をたくさん入れるなり、くるみなど何か他のおいしいものを入れたりしたら別だったが、腹が減っているのでともかく食べるというような感じだった。
 すり潰したジャガイモをこの「ゆべし」の形にととのえて「いも餅」にしたのではなかろうか。いも餅の形を見ていたらそんな風に考えてしまった。
 なお、砂糖、蜂蜜、醤油、ごまだれ、バターをつけて食べる等、家庭によって味付けや食べ方は違うという。最近はお土産屋で売られたり、居酒屋で料理として出されたりもしているらしい。まだ食べておられない方はぜひ食べてみていただきたい。

 もう一つ付け加えておけば、米の粉の代用としてジャガイモではなく、カボチャの粉を使った「かぼちゃ餅」というのがあるそうである。これは残念ながら食べたことはない。
 それにしても、と考えてしまう。なぜカボチャを餅状にして食べるのかと。カボチャは冬の主食だったという話を前に書いたが(註1)、お菓子のない時代、少しでも形や味を変えて菓子に近いものにして食べさせたいということからだったのか、本来の餅に対する郷愁からなのだろうか。
 これも家庭料理、最近はお土産屋で売るところもあるとの話を聞いたことがある。

 「じゃがバター」、北海道の畑作と酪農を一度に味わうことのできる、北海道のおおらかな風土を想起させたてくれる。
 しかし、「いも餅」、「かぼちゃ餅」となると、開拓当初の苦しい生活を思い起こさせ、何か辛くなってしまう。でも、こうしたものを生み出した道民の知恵の産物を北海道の特産品として道内できちんと引き継いでいくと同時に、道外にも売り込むことを考えてもいいのではなかろうか。

 と言いたいところだが、「いも餅」は北海道だけの特産品ではなかった。岩手の北上山地でも「いも餅」をつくって食べていた。それを知ったのはつい最近のことで、何度か本稿に登場してもらっている若手の農経研究者NK君の故郷、北上山地北部の中心にある葛巻町に先日おじゃましてご両親やお祖父さんからいろいろ昔の話を聞かせていただいたときである。
 ただし、その製法や中身は北海道とはかなり違う。まず、ジャガイモを屋外で干して凍らせる。何しろ葛巻の冬は厳しい寒さ、簡単に凍る。その凍ったいもをぬるま湯に入れる。5分くらいすると簡単に手で皮がむけるようになる。皮をむいたイモを長さ一㍍程度のクズの茎に次々に通し、首飾りのような輪にする。それを1週間から10日程度川の水に浸ける。アクを抜くためにさらすのである。それから軒下など屋外の適当なところに吊るして凍らせる。このことを寒ざらしというのだそうだが、2〜3ヶ月するとカケスという鳥が来てついばむようになる。そのころに取り込んで唐臼(註2)で搗いて粉にする。この粉、これは澱粉=片栗粉に近くなっているのだが、これにお湯を入れて練り、10㌢くらいの円盤状の餅をつくる。これでいも餅は完成だが、これに田楽のように味噌を塗って囲炉裏で焼いて食べる。あるいは、餅の中に味噌を入れて大きな団子状にし、それを煮て食べたという。
 これが葛巻の「いも餅」なのだが、これは隣接する青森南部の畑作地帯でもつくって食べていた。青森県野辺地(東北本線と下北半島に行く鉄道大湊線の接する駅のある町)出身でいま農大オホーツクキャンパスにいる畜産研究者YMさんも小さいころ食べたという。その加工途中の縄で吊るして干しているイモも食べた、それが大好きだったと言う。おいしいのかと聞くとうまいものではない、でもどうしても食べたくなった、だから自分はそれを「異旨(いし)」ではなかったかと思うと言う。犬などが普段は食べない草や石を突然食べたりするのを「異旨」というのだそうだが、それと同じで、ふだんは食べない味の、澱粉に近い干したイモを突然食べたくなるのは自分たちの異旨としか考えられないと言うのである。「異旨」、初めて聞いた言葉だったが、そうしたことがわれわれにもあるのではなかろうか。

 いも餅が北上山地、青森南部にある、ここは北海道と同じく米があまりとれなかった寒冷地帯、ここに両者の共通点があると言えよう。ただし、北上、南部でそれを食べたのは1960年以前のことで、今はほとんど食べていない。70年代に生まれたNK君は知らなかったと言う。当然のことながら山形生まれの私は食べたことがない。北海道のいも餅と違ってつくるのに手間がかかることがその主因となっているのだろうとは思うが、これも何とか復活させてC級グルメのコンテスト(こんなのあるのかな)にでも出して、北海道のいも餅と競争させてみてはどうだろうか。NK君やYMさんに提案してみたいと思う。

(註)
1.11年2月28日掲載・本稿第一部「☆北海道入植、南米移住」(5段落)参照
2.前に述べた「足踏みばったり」のこと。
  12年12月13日掲載・本稿第五部「☆鹿威(ししおど)し、ばったり、水車、踏み車」(3段落目)参照。

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コメント

[C24] かんころもち

http://www.nagasaki-tabinet.com/guide/50110/
長崎ほか、九州の場合、サツマイモで、餅をつきます。
  • 2013-01-28 23:40
  • sionoiri
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プロフィール

酒井惇一

Author:酒井惇一
元・東北大学農学部教授
元・東京農業大学生物産業学部教授
現・東北大学名誉教授

 本稿は、昭和初期から現在までの4分の3世紀にわたる東北の農業・農村の変化の過程を、私が農家の子どもとして体験し、考えたこと、また農業経営研究者となってからの調査研究で見、聞き、感じたことを中心に、記録したものである。

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