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国産小麦の薦め



                    麦談義(4)

                 ☆国産小麦の薦め

 軟質小麦、硬質小麦という言葉を前回使ったが、若干説明させていただきたい。
 これは小麦をその粒の硬さによって分けたもので、もっとも硬いのが硬質、軟らかいのが軟質、その中間にあるのが中間質小麦と呼ばれている。この小麦の硬さはその蛋白含有量に比例しており、軟質小麦は蛋白が少なく、硬質小麦は多く、中間質小麦はその中間である。
 ご存じのように、この蛋白の少ない軟質小麦でつくられた粉は薄力粉(はくりきこ)と呼ばれ、天ぷら粉やお菓子などに用いられる。次に中間質小麦であるが、この粉は中力粉(ちゆうりきこ)と呼ばれ、うどん、乾麺、お好み焼きなどに用いられる。蛋白含量のもっとも多い硬質小麦でつくられた粉は強力粉(きようりきこ)と呼ばれ、パンや中華そばの原料となる(註1)。
 そうなると、わが国の小麦ではパンや中華麺がつくれないことになる。硬質・中間質小麦の栽培が容易ではないからである。とくに硬質小麦は難しい。
 そこで必要となるのが、日本に適する硬質小麦の品種とその栽培技術の開発である。また中間質小麦の製パンの技術を開発することも必要となる。
 同時に、わが国で栽培の容易な中間質、軟質小麦にかかわる技術をさらに高め、その生産量をさらに増やして、うどんや素麺などは国産小麦粉でつくれるようにすることである。
 そのために農業技術者、生産者はこれまで努力を続けてきた。とりわけ畑作地帯・寒冷地帯の北海道は麦作の振興に力を入れてきた。そして、小麦では作付面積が11万㌶で全国の約6割、収穫量は7割近くを占めるにいたっている。

 北海道の道路はまっすぐである。山があろうとも谷があろうとも、ともかくまっすぐ、「どこまで行っても長い道」が続く。だから、ものすごい下り道が延々と続き、今度はすさまじい上りになり、それが波のように繰り返される道路があったりもする。私と家内はそうした道路を「ジェットコースター道路」と呼んでいた。
 網走の農大オホーツクキャンパスから付属寒冷地農場に行く途中にもこのジェットコースター道路がある。畑のど真ん中を突っ切って走るこの道路のわきに「手打ちうどん」の看板が出ていた。同僚に聞くと農家が自宅を改造してやっているレストランだという。広い広い麦畑の緑のなかで農家手作りのうどんを食べる、これはいいと思い、行ってみた。手作りの食堂、そして手作りのうどん、気分よく食べた。ご主人に聞いてみた、この麦は北海道の何という品種かと。そしたら何と、道産小麦ではおいしいうどんが打てない、それで讃岐うどん用の小麦を取り寄せて打っているという。ということはオーストラリア産の小麦ということになる。当時の讃岐うどん用小麦はほとんどASW小麦だったからである。ちょっとがっかりしてしまった。この麦畑のなかで何でオーストラリア産小麦を食べなければならないのか。競争相手の小麦をなぜ農家が消費拡大してやるのだろうか。
 たとえば北海道にはうどんなどの日本めん用品種の「ホクシン」がある。しかもそれは国産小麦の半分を占めるにいたっている。なぜこれを使わないのだろうか。その品質がASWに比べて粉の色や製粉性で劣るからなのだろうが、打ち方を工夫するなどおいしいうどんにする工夫をしながらそれを使い、よりよい道産の品種ができあがるのを待つことができないのだろうか。

 パンの作り方の講習会をやるから来ないかと友人に誘われ、家内は近くの町の調理研修施設に出かけた。たくさんのご婦人が集まっており、いっしょに指導を受けながらパンをつくった。さすが北海道、小麦粉はふんだんにあり、家内もたくさんのパンをつくった。帰り際に家内が聞いた、この小麦粉は網走産なのかと。そしたら何と、アメリカ産だという。家内はがっかりして帰ってきた。食べきれないほどのたくさんのパン、ましてやその話を聞いた私は手もつけない、処理に困ったようだ。
 なぜ網走でアメリカ産小麦でのパン作り講習会なのだろう。パンに適する小麦がまったくないのならやむを得ないが、85年に北海道農試が開発したハルユタカがある。グルテン含有量が高くパンにしやすい「強力小麦粉」として開発され、おいしいと評判だ。岐阜県に調査に行ったとき、そこの有名なパン屋さんがすごくほめていた。問題は収穫量が不安定なこと、これを何とか解決してもらいたいと期待していた。なぜこのハルユタカを、しかも道民が、使わないのだろうか。
 私は家内のつくったパンを一口も食べなかった。家内には、そして小麦粉には悪いとは思ったが。

 前に述べたように、香川県は2000年に見栄えがASW小麦に負けない「さぬきの夢2000」を開発した(註2)。しかも雨の被害もうけず、収量も安定している。そこでそれが急速に県内に普及し、最近ではさらに新しい優良な品種が開発されたと聞く。こうしたなかで讃岐うどんは本来の讃岐うどんに戻りつつある。
 一方、北海道では、新品種「きたほなみ」が06年に開発された。これは私が仙台に帰ってきてから聞いたのだが、粉の色や製粉性が改良され、うどんの加工適性がASWに負けない品質であり、収穫期の雨にも強く、収量は「ホクシン」より2割多いということから、急速に普及しているという。
 また、東北では「ネバリゴシ」、「あおばの恋」などの麺用小麦が開発されている。
 それではパン用の硬質、中間質小麦はどうか。
 私が網走にいるころの01年に「春よ恋」(いい名前である)、03年に「キタノカオリ」という栽培しやすく収量も期待できるパン用の品種が新しく開発された。
 東北では02年に製パン、中華麺や餃子の皮用の「ゆきちから」が開発された(これは仙台に帰ってきてから聞いたのだが)。
 その他、全国各地で新品種の開発が近年進められてきた。とくに99年からの国内産麦新技術等研究開発、そのなかの麦品種緊急開発プロジェクト(農水省)はこうした動きを容易にした。こうしたなかで、今述べたような成果が生まれているのである。日本の農学者もすごいものだ。研究条件さえ整備されれば短期間でこれだけの成果がおさめられるのだ。

 06年、仙台に帰ってきたが、生協ストアで小麦粉の買い物をするとほとんどが外国産だった。国産の薄力粉が若干あるだけだった。また生のうどんを包んでいるビニール袋には国産も何も書いていなかった(ということは外国産小麦を原料にしていることを示す)。
 しかし、少しずつ変わってきた。まず、小麦粉のおいてある棚で「北海道産小麦粉を使った強力粉」が売られるようになった。袋に「ふっくらおいしいパンやピザ生地が作れます」と書いてある。うれしかった。家内は早速購入していた。その袋の裏に「カナダ・アメリカ産小麦が原料の強力粉と性質が異なるので作り方は袋の裏に書いてあるのを参考にしてください」と書いてある。そうなのだ。アメリカの小麦粉に合う作り方と「パン焼き器」でパンなど作っていたからおいしくなかったことも問題なのであり、これの改良も必要なのである。家内はその袋に書いてあるやり方でパンをつくってみた。私も一口食べてみた。うまかった。
 一昨年だったと思う、小麦粉の棚に宮城県産「ゆきちから」を使った強力粉があるのをみつけた。でも家内は言う、パンを作るのは無理だろうと。袋を手にとってみたら、パンも作れると書いてある。早速買って家内は作ってみた。うまく作れる。味は遜色ない。宮城県産の小麦でもおいしいパンがつくれる、うれしかった。
 一方、生麺の棚では国産小麦粉使用と袋に書いてある讃岐うどんが見られるようになった。「さぬきの夢2000」を使ったのかどうかはわからないが、それを見たときうれしくなってお昼はそのうどんにしようと早速購入した。最近では「小麦粉は宮城県内で栽培されたゆきちからを使用」してると袋に大きく書いてあるうどんも販売するようになった。また、国産小麦粉使用の「稲庭うどん」も売られるようになっている。乾麺では宮城県産小麦でつくった「白石温麺(うーめん)」がつい最近売り出された。なお、稲庭うどんはなめらかな舌触りが特徴、秋田県湯沢市稲庭町の名産、温麺は宮城県白石名産、油を使わずにつくった素麺とのことでさっぱりして上品な味、お勧めしたい一つである。
 残念なのは国産小麦粉を使っている中華麺がないことだ、と思っていたら、先日一種類だけあった。もっとたくさん出てもらいたいものだが、ともかくこれもうれしい。

 家内は米食派なのだが、たまにパンを食べたい、できれば自分でつくって食べたいと言う。それでパン焼き器を買った。しかし、外国産の小麦でつくったパンを食べるのは米の消費を減らし、食糧自給率を下げるという罪悪感があるせいか、あまりつくらなかった。ところが国産小麦を使った強力粉ができた。これでパンをつくるのは自給率を減らすことにはならない。国産小麦の消費拡大になるし、転作小麦であれば水田の有効利用になる。こういうことから、最近パンを堂々とつくり、昼飯としてときどき食べている。ただし私は食べない。パン食(アメリカの小麦戦略)に対する抵抗感があるし、パンというのは私にとっては代用食あるいはお菓子という感じでしかなく、しかも腹持ちがあまりよくないからだ。でも、家内から一口もらうときがある。パンを焼く香ばしい匂いは食欲をそそるし、作りたてのパンはやはりおいしいからである。

 こうしたなかで、日本麺用小麦にしめる国産小麦の割合はいま約7割になってきているという。これは喜ばしい。
 しかし、中華麺等にしめる国産小麦の割合は1割強、パン用小麦にいたってはわずか2%にすぎない。
 パンに関して言うと、パン屋さんのほとんどが国産小麦を使ったパンをつくっていないからこれも当然である。外国産小麦に適合する機械施設を使っているからだ。それなら機械施設を変えればいい。しかし、とパン屋さんはいう、国産小麦が一定の量、安定して供給されるならいいが、まだそこまでいっていない、それで変えるわけにはいかないと。それもそうだろう、不作で足りなくなって外国産小麦を買わなければならなくなり、そのたびに機械施設を変えなければならなくなったら困る。一定の味で一定の量を安定して供給しなければお得意さんは離れてしまうからだ。ところが現在の国産小麦の生産は量的に安定しているとはいえない。この問題をいかに解決していくか、農業生産の側に課せられた課題はまだまだある。
 それでも以前から見ると国産小麦はかなり伸びた。もっともっと伸ばす必要があるし、また可能性もある。一層の品種改良と栽培技術の改善、製パン・製麺方法の改善等に力を入れると同時に、消費者には意識して国産小麦を購入してもらいたいものだ。

 北海道では、輸入小麦から道産小麦への利用転換を推進する「麦チェン」運動を展開していると聞く。とくに、08年に開発された「ゆめちから」(品質は超強力で、中力粉とブレンドしてパンや中華麺の製造に使う新品種)の普及に力を入れているとのことだが、こうした国産小麦の利用運動をぜひ全国的に展開してもらいたいものである(もちろん米、米粉の消費拡大にも力を入れてもらいたいが)。

(註)
1.この説明は正確なものでないかもしれないが、こう理解しておいて差支えないと思う。
2.11年12月26日掲載・本稿第三部「☆豊作貧乏+凶作貧乏」(4段落目)参照



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コメント

[C32]

とても魅力的な記事でした。
また遊びに来ます!!
  • 2013-06-15 12:27
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プロフィール

酒井惇一

Author:酒井惇一
元・東北大学農学部教授
元・東京農業大学生物産業学部教授
現・東北大学名誉教授

 本稿は、昭和初期から現在までの4分の3世紀にわたる東北の農業・農村の変化の過程を、私が農家の子どもとして体験し、考えたこと、また農業経営研究者となってからの調査研究で見、聞き、感じたことを中心に、記録したものである。

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