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テレビ好きの老後―サスドラ、連ドラ―



                    続・わびしい日々是好日(3)

                 ☆テレビ好きの老後―サスドラ、連ドラ―

 家内や子どもたちがよく言ったものだ、「テレビがなくてもっとも困るのはお父さんだ」と。そうなのである、本と新聞、鉛筆と紙、そしてテレビ、これがないと私は落ち着かないのである。
 新聞についてはいうまでもないと思うが、これはもう習慣だからだろう、朝一応目を通さないと何か落ち着かない、夜にその読み残しを読み終わらないと寝付けない。休刊日などは何か手持無沙汰、忘れ物をしたような感じ、時間をどうつぶしたらいいのかなどと考えてしまう。テレビを見ていればいいではないかと言われるかもしれないが、新聞を読んだり、テレビが面白そうだったらテレビを見たり、また新聞に戻ったりしているので、その片方がないとやはり寂しいのである。
 本、と言っても小説なのだが、これがないと特に不便なのが病院などで待たされる時間、夜汽車などで何もすることのない時間、夜寝つけない時である。小説でなくともいい、ともかく手持無沙汰の時は活字が欲しい。だから、旅行のときには必ず本をもっていく、読む読まないは別にして。
 鉛筆と紙、これは商売柄からなのだが、どこに出かけるにもこれを持って歩かないと不安である。家にはこれがあるから心配はないが、最近はパソコンで書くようになり、またメールや調べもの等もするようになったので、家の中ではパソコンも不可欠になってきている。
 テレビ、なぜかわからないが、これがないと困る。きっと子どものころからの映画好き(ニュース映画も含めて)だったことから来ているのではないかと思う。テレビは持ち歩きなどできない(最近はワンセグがあるが、外に出てまでしかもあの小さな画面を見る気はまだしない)ので家にいるときということになるが、毎朝、新聞のテレビ欄を見て今日は何を見ようか考えるのは本当に楽しい。

 そのテレビが網走から仙台に帰った直後突然故障した。そのときは本当に困った。仕事をやめてからのことだからましてやである。もちろん見ない日もたまにあるのだからそれでかまわないはずなのだが、見られないというだけで身体の一部が欠落したようで落ち着かない感じがするのである。故障を直すとなったら古いのでかなりの時間見られなくなる、まあデジタルに切り替えるいいチャンス、ということですぐに家電量販店に買いに走った。翌日据え付けに来てくれたので一昼夜で見られるようになり、しかも今までよりも映像はよし、便利はよし、おかげで助かった(お金のことは別問題として)。
 これだけテレビ好きなのだが、にもかかわらず私は真面目な視聴者とはいえなかった。「ながら族」だったからだ。朝夕、食事をしながらテレビのニュース等を見る、夜9時ころから居間の食卓で原稿書きや調べもの等の仕事をしながらテレビを見る、これがいつものパターンだった。なお、この夜9時からの仕事は私の子どもが小さかったころについた癖で、8時に子どもといっしょに風呂に入り、本を読んでやったりしながら寝かしつけ、それからテレビを見ながら仕事をしたと言う習慣がそのまま残ったものである。なお、居間で仕事をするのは書斎の暖房費の節約のためと家族には言い訳しているが、夏も居間でやるのだからそれは理由にあまりならない、実はテレビを見たいからなのである(そんなことは家族はわかっているのだが)。

 ちょうど9時から2時間サスペンス・ミステリードラマ(これからサスドラと呼ぶ)が始まる。これが楽しみである。
 まず犯人当てが楽しい。しかも、まじめに見ていなくとも、つまり仕事をしながらでも大体は犯人を当てることができる。しかも犯人は必ずつかまる。犯人と悪人は同一ではないが、悪人は必ずそれなりに罰せられる。安心して見ていられる。
 それに名所・旧跡を見られることもいい。事件は必ずそういう場所で起きる。また、必ず最後に犯人は名所旧跡のところで告白する。ときどきはそこで主人公が犯人に殺されそうになる。するとタイミング良く警察のパトカーのサイレンが響き、刑事が現れて犯人を逮捕してくれる。よくもまあこれだけ偶然が積み重なるもの、現実にはこんな都合のいい話はあるわけはないなどとあきれはてながらも、ともかく犯人はつかまり、主人公は助かることがはっきりしているから安心して見ていられるし、名所旧跡を見るのも楽しい。行ったことがあるところは思い出してなつかしがりながら、まだ行っていないところは今度行ってみようか、いやたいしたところではなさそうだなどと評価しながら、楽しめる。
 また、パターンが決まっているから安心して、仕事をしていながらでも、見ていられることもいい。
 パターンと言えば長寿番組だった『水戸黄門』(もう終わっているが)、これも安心して見ていられるではないか、正義は必ず勝つし、気分がすかっとする、由美かおるの入浴シーンもある(こう言ったのは本稿に何度も登場した若手研究者のNK君である)、それなら水戸黄門でもいいではないかと言われるかもしれない。しかしこのドラマの最大の問題は、前にも述べたように(註1)権力を笠に着て問題を解決することである。しかも時代考証がかなりインチキで、勉強にもならない。単なる勧善懲悪で、筋書きがすぐにわかってしまうのではつまらない。
 サスドラの場合は、原作者、脚色者により違うが、犯人探しや密室トリック、アリバイ崩し等で視聴者の頭を使わせる。また、登場人物が頭を使って問題を解決する内容になっている。権力ももちろん関与するが、政治は悪者になることはあってもその力で解決することはあまりない、警察権力も一部を除いてはそのお偉方がでてきて解決するなどということもなく、部下の刑事が上層部に刃向かうことすらある。インチキだとわかっても何となくすっきりする。簡単に筋書きが読めたとしても、読めたこと自体が楽しい(荒唐無稽なこと、法的に間違っていると思われること等多々あるが)。
 また、パターンは同じでも主人公の職業をさまざま変えるなどしているので、それも面白かった。家政婦、葬儀屋、旅館の女将、バスガイド、消防士、弁護士、刑事、検事、判事、医師、鍵師、詐欺師、掏摸等々、それぞれの仕事がよくわかり、また特徴を生かした活躍を見るのが楽しかったのである。
 松本清張など本格推理作家の作品のドラマはいうまでもなく見させる。
 こんなことからずっとサスドラのファンできた(といっても必ず見なければ気が済まないなどと言うことはなく、たまたまその時間に当たったら見るだけだったが)。だからかなりの知識がある。

 かなり前になるが、研究室でのお茶の時間、みんなにこんなことを聞いたことがある、連続殺人事件の発生件数のもっとも多い県はどこか知っているかと。当然みんな答えられない。
 実は京都なのだ、こう言うとみんな驚く、へえ知らなかったと。続けて私はいう、みんなはテレビの勉強が足りない、テレビで毎週のように放映しているではないか、京都以外ではたとえば伊豆のようないわゆる名所旧跡のある県での発生件数が多い。もちろん、東京も人口が多いから当然発生件数は多いが。なお、京都の事件の黒幕は山村美沙、列車に関連する事件の黒幕は西村京太郎である場合が多い。
 そこで初めて、私にだまされたと言って大半の人は笑う。それでもきょとんとしているものがいる。彼らにはテレビをもっときちんと見なさい、それも勉強なのだと冷やかす。
 とは言っても私もあまり見ることができなかった。出張あり、夜の飲み会ありで放映時間に不在ということがけっこうあったからである。

 定年になり、仕事は一切やめ、毎日が日曜、いつでもテレビを見られるようになった。また、仕事をしながらテレビを見るなどということをしなくともすむようになった。ゆっくり集中して見られるようになる、これまた日々是好日である。
 そう思って真面目に見るようになったら、何ともつまらない。あまりにもワンパターンであり、あり得ないことが多すぎる。天才的な主人公が一人で考え、捜査し、犯人を見つける、自白は警察署内ではなくて断崖絶壁など名所旧跡のある場所、犯人になりそうな人全員をそこに集めて主人公が謎解きをしてみせ、真犯人を名指しをする、そこにサイレンを鳴らしてパトカーがやってきて真犯人を捕まえる。まさにパターン化している上に作り方も雑、役者の演技も鼻につく。
 こんなことは前からのこと、最初からわかっていることであり、何で今更と言われるかもしれないが、今まではつまらなくなれば仕事に集中し、ときどきテレビに目をやるだけだった。そして最後の結論はやっぱりそうだったか、まあドラマなんてこんなものだろう、ちょっと時間を損したが、その分これからもう少し集中して仕事を終わらそう、こんなことだったので、とくに不満も持たなかったのである。しかしまともに見ていたらいやになる、もう見たくなくなった。
 そんなことを感じはじめたころ、なぜかわからないが、サスドラの放映が減ってきた(衛星テレビでの再放送はかなり多いが)。
 それでますますあまり見なくなった。

 一方、1時間のサスペンス・ミステリードラマの連載・シリーズものが増えてきた。
 見てみると、比較的リアリティのあるドラマが多い。荒唐無稽の名探偵、天才ではなく組織が解決するものが多い。また、鑑識や科警研などを基礎に科学的に捜査するのもある。一方で、組織からのはみ出し者、上司に対して反骨精神をもつもの、左遷組なども描く。こんなことは現実にはあり得ないとは思っても、おもしろい。それでそのいくつかを見るようになった。
 もちろんそればかりではない。連続ドラマを見ることができるようになったこともある。以前はあまり見る気はしなかった。不在のときが多いので連続して見られないからである。しかし今はそんなことはなくなったので、新聞のテレビ欄などで注目して見るようになったのである。
 もう一つ、最近増えたものに医療にかかわるドラマがあるが、それもいくつか見るようになった。医療に関するものとしては山本周五郎の『赤ひげ診療譚』がよくドラマ化され、もう一方で手塚治虫の『ブラックジャック』がアニメ化されたが、それ以外ほとんどなかったのにである。これは医療、健康に対する関心の高まりからであろう。『JIN―仁―』(註2)や前に述べた『Dr.コトウ診療所』(註3)のように医療のあり方を問いかけたり、ブラックジャックのような天才医師『Doctor-X 外科医・大門未知子』(註3)が出て来たり、医療の最新技術が紹介されたり、非常に面白い。かなり誇張されているところもあるように思えるが、これもドラマ、そうでなければ面白くないかもしれない。
 最近面白かったのは『ダンダリン労働基準監督官』(註4)だ。労働者の権利を護ろうとするドラマ、こうしたドラマが増えてもらいたいものだ。

 ところで、最近のテレビドラマに漫画を原作としているものが多い。ドラマ化したい小説が少なくなったのか、小説よりも漫画は登場人物や背景、動きを文章ではなく絵に描いているのでそれに似せればいいからとくに考えることなしにドラマ化しやすいからなのか、漫画の質が高まったからなのか、よくわからない。それから、漫画はアニメで放映されるのが普通で、実写映画・ドラマ化すると一般に評判がよくなかったのだが、なぜ最近実写化されるようになったかも疑問になる。漫画が実写に近くなっているからなのか、これもわからない。少し考えて見ようかと思っている。

(註)
1.13年9月23日掲載・本稿第六部「☆巨人・大鵬・卵焼き、東北楽天」(5段落)参照
2.『JIN―仁―』 TBS系列ドラマ 2009、11年放映 (原作:村上もとか 集英社文庫)
3.14年2月10日掲載・本稿第六部「☆医者の今昔」(9~12段落)参照
4.『ダンダリン労働基準監督官』 日本テレビ系列ドラマ 2013年 (原作:田島隆 作画:鈴木マサカズ『ダンダリン一〇一』 講談社)
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プロフィール

酒井惇一

Author:酒井惇一
元・東北大学農学部教授
元・東京農業大学生物産業学部教授
現・東北大学名誉教授

 本稿は、昭和初期から現在までの4分の3世紀にわたる東北の農業・農村の変化の過程を、私が農家の子どもとして体験し、考えたこと、また農業経営研究者となってからの調査研究で見、聞き、感じたことを中心に、記録したものである。

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