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味噌の和え物、煮物、漬け物



                マメ・思いつくまま(13)

              ☆味噌の和え物、煮物、漬け物

 さて、前回は食材に味噌をつけて食べるという話をしたが、もう一つこれと似ているものに「味噌和え」がある。
 この味噌和え、それと前回焼きお握りのところで触れた焼いた味噌、この二つでまず頭に浮かぶのは「ウコギの新芽の味噌和え」である。これについては前に簡単に触れており(註1)、また後に山菜について述べるところで詳しく述べたいので省略するが、これとまったく同じやり方をして食べるのが「間引きニンジンの葉の味噌和え」である。これについてもう少し詳しく述べて見よう。

 初夏のころ、春に種播きしたニンジンが伸びてくる。密植しているので、間引きが必要となる(註2)。まず、葉っぱが数㌢くらいに伸びてくると第一回の間引きをする。何本か残して間引きしたものは捨てる。十数㌢くらいまで伸びると第二回目の間引きである。もっとも元気そうな一本を残し、その周りのニンジンをすべて疎抜(おろぬ)く。当然このニンジンの根っこつまり人間が食べることを目的としているところの部位はまだ本当に小さく、売り物にも食べ物にもならない。
 しかし食べられないことはない。とりわけその葉っぱは栄養たっぷり、小さいからきわめて柔らか、ニンジン独特の臭いはあるがまだ小さいのでそれほど味もきつくない。小さく細い根も同じである。これを捨てるのはもったいない。そこで疎抜(おろぬ)いたニンジンを葉から根まですべてさっとゆがいて細かく刻み、それをあぶった味噌で和える。
 それをご飯の上にかけてご飯と一緒に食べる。葉っぱはやわらかく、苦みはあるがほんのり(それがいいのだが)、成長したニンジンの匂いや味とはまるっきり違い、それほどきつくない。このニンジンの葉のほのかな苦みと味噌の味、それにご飯の甘味、これが渾然一体となって絶妙な味、口に入れたときの感触もよく、食欲も進む。ビタミンもけっこうあるのではなかろうか。色もいい。葉っぱの鮮やかな緑の中に味噌・根のだいだい色が混じり、ご飯の白が映える。
 ご飯にかけないでその和え物自体を酒のつまみにしてもいい。これはこれで何ともいえない。
 しかし、間引きニンジンの葉っぱなど八百屋で売っているわけはない。成長したニンジンの葉では、食べられないことはないが、固いし、味も匂いもきつい。それで生家に帰った時、それもニンジンの間引きの時期とぶつかった時だけ食べるしかなかった。やがて生家の農地はなくなり、もちろんスーパーなどでは売っておらず、もう食えなくなってしまった。
 と思っていた数年前の春のある日のこと、行きつけのホームセンターに行ったとき、店舗の入り口にある花や野菜の種の売り場でニンジンの種の袋が目に入った。そうだ、ここでニンジンの種を買い、それをプランターに植えて小さいうちに採り、味噌和えにして食べたらいいではないか。根つまりニンジンそれ自体を育てるわけでなし、底の浅いプランターでも十分に育つ。また密植していいのだからけっこうな量になるはずである。そう思って種を買って(註3)植えてみたところ、3週間くらいでそれなりの大きさに伸びてきた。そこで早速抜いて味噌和えにしてみた。うまかった、しばらくぶりだった、昔の味だった。
 それから毎年やるようになったが、去年は種を買うのを忘れてしまって食べずじまい、今年は忘れないように気をつけていたため食べることができた。来年も忘れないようにしようと思っている(元気で、ボケないでいられればの話だが)。
 このように、食材に味噌を入れて混ぜ合わせ、それで食材の味をひきたて、さらには独特の風味と感触をつくりだし、また栄養価を高める、こうした味噌和えは日本人の知恵、ぜひとも引き継いでもらいたいものだ。
 なお、言うまでもないことだが、味噌に他の調味料を加えて和える場合、たとえば味噌に酢を入れて和える「酢味噌和え」などがある。これはこれでまたおいしい。これについてはまた後で別途述べたいと思っている。

 さて、今まで味噌をつける、味噌で和えるという話をしてきたが、もう一つ味噌で煮つける、煮込むという食べ方の「味噌煮」がある。食材を煮るという点では味噌汁と似ているが、味噌汁のように食材を煮た汁を飲むことを目的としておらず、食材に味噌の味を沁みこませることを中心目的としている点で異なる。
 味噌煮と言えばまず私の頭に浮かぶのがサバ、イワシ、ニシンの味噌煮である。ともに大衆魚、手に入れやすい、しかし塩焼きばかりではあきてしまう、それで味噌煮ということになるのだろう。
 ところが、不思議なことに牛豚鶏肉の味噌煮はない。味噌が合わないのだろうか。
 また野菜の味噌煮も思い浮かばない。野菜は味噌汁に入れるのでとくに味噌煮にしなくともいいからなのか、野菜は味噌煮に合わないからなのか、今までまったく考えたことはなかったが、何とも不思議である。
 わが家ではたった一つ、大根とイカの味噌煮がある。輪切りにした大根とイカを味噌・砂糖・イカの腑・醤油少々を混ぜ合わせた汁で煮るのである。これにサトイモを入れてもいい。秋から冬の寒い時に食べると絶品である。イカの腑の味が入ったこの煮汁がまたうまい。

 話はまた魚に戻るが、味噌煮でもう一つ頭に浮かぶのはハタハタだ。
 生のハタハタを焼いて食べたことはなかった。体が小さく、身が軟らかなので焼きにくいからなのだろう。味噌煮にすると身は崩れない。食べるところは少ないが、白身が味噌味とぴったり、卵(ぶりっこ)もうまく、身体が温まったものだった。子どものころは冬になると必ず食卓に出たのだが、仙台では魚屋さんで売っていなかった。ハタハタは日本海の魚だったからであろう、しかし、輸送・冷蔵技術の進歩で仙台のスーパーにも並ぶようになった。それで毎年、秋田・山形が本格的な冬を迎えるころハタハタの味噌煮を楽しんでいる。ただし資源保護のための漁獲制限で一時期食べられなくなった。ようやく漁獲量が復活した年の冬、家族ぐるみで親しくさせてもらっている秋田の若美町(現・男鹿市)の農家ONさんご夫婦からハタハタが何と一箱も贈られてきた。驚きながら、喜びながら、ともかく早速おいしくご馳走になったのだが、何しろ一箱、私たちだけではまた隣近所におすそ分けしても消化しきれない。そしたら秋田出身の人が教えてくれた、味噌漬けにすれば保存でき、それを焼いて食べればおいしいと。早速試して見た。うまい。味噌煮とはまた違う味である。おかげさまで長期にわたって贅沢をさせてもらった。
 このハタハタ以外で魚の味噌漬けといえばタラしか思い出さないが、山国の私の故郷では漬物にするほどの魚が買えなかったからなのだろう。
 だから味噌漬けといえば野菜だった。キウリ、ナス、大根等々、余った野菜を味噌桶の中に突っ込むだけ、きわめて簡単である。香りや味などに味噌の風味が移り、それぞれの野菜の甘味、うま味と味噌の風味があいまってうまいのだが、それは最初だけである。そもそも味噌が塩っぱいところに長期間漬け込んでおくのだからやがて塩っ辛くなってくる。また野菜の甘み、味がなくなってくる。さらに時間がたつと色が悪くなり、塩っ辛さだけが残る。それでも冬から春先にかけて野菜のなくなる時期のおかずとしてこれは役に立った。また味噌漬けはその塩味だけでも主食を掻き込むことができるので貧乏人の食べ物でもあった。
 夏、さまざまな野菜のおかずや漬物があるので味噌漬けなど必要なくなるが、汗を思いっきりかいた日の昼飯とくに水ご飯のとき(註4)などにまだ味噌桶に残っている味噌漬けをだし、その塩っばさで食欲をかきたて、また塩分を補給したものだった。

 こんなことを書いていけばきりがないのでやめるが、ここまで書いてきてふと思った。食や味噌の専門家でもないし、まともな料理などろくにできないのに、知ったかぶりをしてこんなにいろいろと食について書いていいのか、その資格はあるのか、間違いや記憶違いもあるのではないかと。でも、これもまあ年寄りの思い出話、昔話だからこそのこと、ご愛嬌だと思って聞き流していただきたい。

 昔の話といえばまた思い出した。
 私たちの子どもの頃は火傷をしたらそこのところに味噌を塗れと言われたものだった。もちろんいかに味噌が身体にいいといってもそこまでは効能なし、それどころかかえってひどくなるとのことである。
 やはり「味噌をつける」ようなことはしてはならないし、したくもないものである。

(註)
1.11年9月26日掲載・本稿第三部「☆食の地域性」(3段落)参照
2.よけいなことかもしれないが、もしかして「間引き」のことをよくご存じない方もあるかもしれないので、簡単に説明させていただく。
 植物はそれぞれ育つ間隔がある程度開いていないとよく育たないが、苗の頃には逆に互いに寄りそっていた方が育ちがよく、またそうするとたくさんの苗の中からいい苗を選んで残して育てることができ、さらに芽の出ない悪い種があっても苗が病虫害にあってもたくさん播いておけばいくつかは芽を出すのでそれを育てることができる。それで、最初はたくさん種を播いて育て、つまり密植し、一定の大きさになったら必要な数のいい苗だけを残してすべて抜いて、苗の間隔を開け、伸び伸びと大きく育てる。この不必要な苗を抜く作業のことを間引きあるいは疎抜きという。子どものころ、ハクサイやダイコンなどの間引きをよく手伝わされたものだった。
3.いろんな品種の種があり、何がいいのかわからないので短根ニンジンでいいだろうとそれにしてみた。
4.13年8月1日掲載・本稿第六部「☆お粥・水ご飯・混ぜご飯・雑炊」(4段落)参照

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プロフィール

酒井惇一

Author:酒井惇一
元・東北大学農学部教授
元・東京農業大学生物産業学部教授
現・東北大学名誉教授

 本稿は、昭和初期から現在までの4分の3世紀にわたる東北の農業・農村の変化の過程を、私が農家の子どもとして体験し、考えたこと、また農業経営研究者となってからの調査研究で見、聞き、感じたことを中心に、記録したものである。

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