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コクワ、マタタビ、コケモモ



              果実・雑感(17)

            ☆コクワ、マタタビ、コケモモ

 サルナシ、ヤマナシ、ヤマモモ、コケモモなどの名前が子ども向けの本などに出る。その話の内容などからみてその実は食べられるようだ。山とか猿、苔とかの名前がその上についているからきっと野生の木なのだろう。でもナシとかモモという名前からしてその仲間、その実はきっとうまいのかもしれない。一度は食べてみたい。そんなことを考えながら、子ども時代を過ごした。
 やがてそうした木の実に関する知識が少しずつ増えるなかで、それらは山に自生する木でその実は食べられる等々、いろんなことがわかってきた。たとえば、ヤマナシはナシの野生種だが、ほかの三種はナシともモモともまったくかかわりのない樹種であることである。さらに、ヤマナシ、ヤマモモは東北では自生していないこと、コケモモは東北の場合高山でしか自生していないこともわかり、残念ながらこうした実を採って食べることはできないとあきらめるより他なかった。
 しかし、サルナシについては食べられる可能性がある。北海道・東北でも自生しているとのことだからである。そう期待したにもかかわらず、食べる機会はなかなかめぐって来なかった。

 90年前後のはずである、山形県の飯豊町か西川町かどっちだったか思い出そうと思っても思い出せない(やはり年齢である)し、ノートを見てもそのことが書いていない(雑談しているときのことだったからだろう)のだが、役場か農協の職員の方と話しているとき、こんな話が出た記憶が残っている。
 つい最近までこの地域では山からコクワの実を採ってきて酒をつくっていた、今は廃れているが、改めてこれを見直してコクワ酒をつくり、地場産品として売り出そうと取り組んでいると。
 と言われても私はコクワというものがどんなものかわからなかった。そしたら通称サルナシだという。ここで生まれて初めてまともにサルナシにぶつかった。と言っても、実を見たわけでも食べたわけでもなく、酒を飲んだわけでもなかった。それでもうれしかった。前に述べた山形県朝日村のヤマブドウのワインづくりへの取り組み(註1)と同じことが、かつての山の恵みの新たな段階での活用が、ここでもなされていることが非常にうれしかったのである。
 それから十数年後のことである、コクワ=サルナシの実を生まれて初めて見、また食べるという体験をした。それも何と北海道でだった。農大オホーツクキャンパスの用事で斜里町(知床半島のある町)朱円地区の集落の集まり(註2)に行ったとき、会場の机の上に地場産品の一つとしてコクワの実なるものが並べられていたのである。
 熟する前のなつめを一回り大きくしたくらいの緑色の実だった。どうぞ食べて下さいと勧められ、遠慮なくごちそうになった。ちょっと酸っぱ味があったが、甘かった。
 自生しているのを初めてみたのは、それから一年くらいしてから、網走の農大キャンパスの裏の林の中でだった。蔓状の木についている実はまだ小さくて食べられなかったけれども。同行してくれた生物生産学科の先生がこのコクワはヒグマが大好き、だからコクワのあるところでは気をつけなければだめだと教えてくれた。サルナシという名前はサルが好きな実だからつけたのだと聞いていたが、北海道にはサルがいないので「クマナシ」とつけるべきだということになろう。サルナシは本来のナシよりはかなり小さいのでナシという名をつけていいのか疑問だが。

 家内もサルナシを食べたことがなかった。私と同じように初めて食べたのはやはり網走、しかも同じく私の勤務先農大キャンパスの裏に広がる林のなかだった。近所の友人たちと散策中にこれがコクワだと教えられ、採って食べてみたという。中身はキウイフルーツとそっくり、緑色の果肉の中心からごく小さい黒い種子が放射状に並んでいるので驚いたという。私は割って見なかったのでそのことはわからなかったが、そういえば味はキウイフルーツとほぼ同じだった。
 それにしても驚いた。キウイフルーツは表皮が茶色、実は大きく、一見してサルナシとは違うが、果肉や味はそっくりなのである。蔓性植物であるのも似ている。ご存知のようにキウイフルーツは60年代にニュージーランドから導入して日本で栽培を始めたもの、なぜ南半球の果物と同じようなサルナシが日本に自生しているのか、不思議でしかたがなかった。
 そこで調べてみた。何と、キウイフルーツはそもそも中国自生のシナサルナシ(羊桃)の種子をニュージーランドが導入し、品種改良して栽培するようになったもの、しかもサルナシと同じマタタビ科マタタビ属とのこと、似ているのが当然だった。
 この似ているキウイフルーツの栽培がもうかなり普及している状況の下ではむずかしいかもしれないが、山形県をはじめ各地で取り組んでいるサルナシの栽培植物化やサルナシ酒=コクワ酒の製造販売にがんばってもらいたいものである。

 今マタタビの話が出たが、これも食べられるのだそうである。私は食べたことはないが、あまりうまいものではないとのことである。ただしマタタビ酒はごちそうになったことがある。真冬の寒い日、宮城県のある村の調査で夕方震えあがって旅館に帰ったら、おかみさんが温まるからとマタタビ酒を出してくれたのである。おかげさまで本当に助かったのだが、焼酎と砂糖で漬けているせいか味についてはとくに印象がない。
 このようにマタタビ酒は飲んだことがあるが、コクワ酒を飲む機会になかなか恵まれなかった。たまたま昨年夏、西川町の有名な山菜料理屋に行ったとき食前酒としてコクワ酒が出てきた。食前酒としてはぴったりだったが、マタタビ酒とともに健康食品であるとのこと、ともにその普及を図ってもらいたいものだ。

 ところで『猫にマタタビ』という言葉は小さいころからよく聞いていたが、まあこれは話だけのことだろうとあまり信じていなかった。ところがそうではなかった。かなり前になるが、私の生家に娘の車で行ったときのことである。同乗していった娘の飼っている猫は生家についたらまさに『借りてきた猫』を絵に描いたようにおとなしくしていた。ところが台所のところに連れて行ったら突然狂ったようにごろごろ身体をくねらせながら床板に身体をすりつけ、唸りだした。そしてその場所から離れようとしない。みんな何だろうとびっくりした。そしたら母が言った、そういえばこの前いただいたマタタビ酒をここにちょっぴりこぼした、拭いたけれどもそれが滲みついて残っているので猫が騒いでいるのではないかと。そうだったのかとわかったのだが、家族みんなでこれが俗にいう「猫にマタタビ」のことなのかと感心したものだった。

 さて、話を戻すが、最初に述べた四つの木の実のうちのコケモモについては家族との登山のさいに何回か見ている。といってもちょうど花の季節、赤い実は見たことがなかった。それをまともに初めて見たのは農大の用事でサハリンに行かされたときである。バザールで売りに出されているバケツ入りの真っ赤なコケモモをたくさん見た(註3)。一般家庭のご婦人が近くの林野に行って採ってきた野生のものとのことだった。日本では高地にしか生えていないのにさすが寒冷地である。自家製のジャムやジュースにしてもありあわせの空き瓶に詰めて売っていた。しかし買って食べる気にならなかった。
 初めて食べたのは知床五湖のレストハウスである。と言ってもコケモモのソフトクリームであるが。ピンク色をしてきれいだし、ほんのり甘かったが、本当のコケモモの実は味わったことがない。

 以上述べた以外で、山にも自生もする木に生る果皮・果肉の柔らかい実で私の食べたものと言えば、他にグミ、スグリ、キャラボク(オンコ)などがある。これらについては、家庭果樹(庭園木)でもあるので、前にそれを取り扱ったところで述べている(註4)。それでここでは省略する。

(註)
1.11年7月22日掲載・本稿第二部「☆山菜の栽培植物化」参照
2.12年3月21日掲載・本稿第三部「☆時代と地域的な気質」(5段落)参照
3.東京農大サハリン100の素顔編集委員会編『サハリン100の素顔―もうひとつのガイドブック―』東京農大出版会、2003年刊、77頁参照。
 なお、サハリンでは前回の記事で述べたキイチゴの栽培もしていていた(同78頁参照)。
4.13年9月2日掲載・本稿第六部「☆甘いもの、家庭果樹」(6~8段落)参照
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プロフィール

酒井惇一

Author:酒井惇一
元・東北大学農学部教授
元・東京農業大学生物産業学部教授
現・東北大学名誉教授

 本稿は、昭和初期から現在までの4分の3世紀にわたる東北の農業・農村の変化の過程を、私が農家の子どもとして体験し、考えたこと、また農業経営研究者となってからの調査研究で見、聞き、感じたことを中心に、記録したものである。

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