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山村の子どもと木の実



                 果実・雑感(18)

              ☆山村の子どもと木の実

 さて、これまで私の体験を中心に語ってきたが、東北の山村で育った私と同世代の子どもたちはもっといろんな木の実を食べていたのではなかろうか。そう思って、岩手県葛巻出身のNK君に頼み、前節でもご登場いただいたNNさんから電話で聞いてもらった。
 そしたら栗やクルミなど一般的な木の実以外にシラクチ、ヤマガ、クマイチゴ、クワイチゴ、スグリ、セイヨウスグリ、ヤマグミの実を食べたとのことだった。
 そのうち私がまともに知っているのはスグリだけだったが、クマイチゴは前々回の本稿記事で述べたキイチゴの一種、私たちがバライチゴと呼んでいたものと考えられ、それからシラクチとは前回述べたサルナシ=コクワのこと、ヤマガとはヤマグワのことだとNNさんが教えてくれたので、これも知っていたことになる。

 シラクチと呼んでいたコクワは、美味しくてよく採って食べたとのことである。ただし、たくさん食べると口が割けると言われていたという。食べ過ぎを注意したのだろうが、それ以外にも何か理由があったのかもしれない、それはわからない。
 次にヤマガ=ヤマグワだが、山に自生する桑の木の実のことであり、栽培している桑の実と基本的には同じで、もちろん食べられる。前にも述べたように(註1)その葉は養蚕農家が蚕とくに稚蚕(まだ幼い蚕)に食べさせるために利用された。
 どこでだったが思い出せないが、山村調査に行ったときに山道のわきにヤマグワの緑、赤、そして熟した黒紫の小さな実がなっているのを見つけてちょっとつまんだことがあるが、味は栽培種の桑の実とまったく同じだった。

 しかし、それ以外の木の実が私にはわからない。
 まずクワイチゴだが、どんなものかわからないので、ネットで検索してみた。
 そしたら、『クワイチゴとは―植物名weblio辞書』という項目が一番最初に載っていた。そこでそれをクリックしてその最初にある『植物辞典』を見たら、クワイチゴとは「桑苺 クマイチゴの別称 バラ科の落葉低木」であるとの説明をしていた。
 しかし、このクマイチゴは前々回の記事で述べたようにキイチゴの一種で東北にも自生しているものであり、NNさんはそのクマイチゴに加えてクワイチゴも食べていたと言うのだから、NNさんのいうクワイチゴはクマイチゴではない。
 そこで今の『weblio辞書』のクワイチゴの説明をさらに読み進めてみた。すると、『季語・季題辞典』という項目があり、そこに「桑苺 クワイチゴ 桑の実の別称」とある。また『デジタル大辞泉』ではクワイチゴとは「《イチゴに似ているところから》桑の実のこと」であるとあった。
 とすると、NNさんのいうクワイチゴは桑の実ということになる。しかし、NNさんたちは同じ桑の実でもクワイチゴはヤマガ=ヤマグワとは違うものとしている。とすると、クワイチゴは栽培している桑の実を指しているということになるのではなかろうか。つまり「山の『畑』の 桑の実を 小かごに摘んだは いつの日か」の桑の実ということになるのである。ただし、NNさんの地域の場合は畑ではなくて道ばたに植栽してある桑の木の実のことを言うと考えられる。本稿第五部で述べたように(註2)、家々から畑そして林野へと通じる細い道路の両脇に牛馬が畑に入らないようにするために桑の木の垣根が延々と張り巡らしてあり、その桑の葉を利用して養蚕をいとなんでいたのだからである。

 さて、次にセイヨウスグリだが、これも私の初めて聞く言葉だった。それでネット検索してみると、その名のごとく西洋から移入されたものとのこと、グースベリーとも言い、寒さに強いので北海道や東北の林野で栽培され、生食、ジャム、塩漬けで食べるとのことである。これがどうして葛巻に導入されたのかわからないが、NNさんたちが食べたのはこれだったのだろう。
 ところで、私の子どもの頃食べたスグリ、近所の農家の庭にあったものだが、それはスグリだったのかセイヨウスグリだったのかわからない。ネットに出ている写真を見るとスグリとセイヨウスグリはそっくりであり、それでは判断できないからである。

 最後にヤマグミだが、当然のことながら私は山に自生しているグミのことを言うのだろうと考えた。でも確かめてだけはみようとネットで検索してみた。そしたらやはり『weblio辞書』がヤマグミの検索頁のトップに出てきた。
 そこで早速それを見てみると、そこにはヤマグミとは「山茱萸、ミズキ目ミズキ科の落葉高木、園芸植物、薬用植物」のことであると書いてあった。
 山茱萸、見たことも聞いたこともない。そこで次に「山茱萸」を検索してみたら、『Wikipedia』に「サンシュユ---(中略)-----ハルコガネバナ、アキサンゴ、ヤマグミとも呼ばれる---(中略)-----薬用植物として栽培、観賞用として庭木などにも利用」とあった。このサンシュユを写真で見ると実はグミと似ている。しかし、これはグミ目グミ科のグミではない。NNさんの食べたヤマグミとはどうも違うようである。
 そこでもう一度改めて調べてみた。そしたら「グミ科グミ属の一種アキグミはヤマグミとも呼ばれる」という記事があちこちにあった。そしてこのアキグミ=ヤマグミは北海道南部から九州までの低い山に育つという。しかも赤くて白い粉を噴いたような実で、甘酸っぱく、渋みもあるが、熟すと甘味が出て渋みも少なく美味しくなるとのこと、まさにぴったりである。NNさんたちはこのヤマグミを食べたのだろう。

 山に入ってこうしたさまざまな木の実を採って遊び、それを食べる=自分たちの力でおやつを食べ物を手に入れる、今はもうこんなことをしなくともすむようになった。遊び道具はあまたあり、お菓子・果物等々手軽に手に入れられる時代になったからだ。それはそれでいいことである。しかし本当にそれだけでいいのだろうか。木の実を採って遊ぶ、そしてそれを食べる、何万年も続いてきたであろうこうした行為が忘れ去られていく、何か人間が人間らしくなくなってくるような気がするのだが。

(註)
1.11年7月13日掲載・本稿第二部「☆北限(?)の養蚕」(1段落)参照
2.13年3月8日掲載・本稿第五部「☆地頭・雇い・名子」(1段落)参照
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プロフィール

酒井惇一

Author:酒井惇一
元・東北大学農学部教授
元・東京農業大学生物産業学部教授
現・東北大学名誉教授

 本稿は、昭和初期から現在までの4分の3世紀にわたる東北の農業・農村の変化の過程を、私が農家の子どもとして体験し、考えたこと、また農業経営研究者となってからの調査研究で見、聞き、感じたことを中心に、記録したものである。

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