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粟どぶろくの試飲




            戦後昭和の酒と村・街そして私(5)

          ☆うれしくも悲しくもあった粟どぶろくの試飲

 山村の酒造りのことを書いているうちふと思いついた、こうした雑穀どぶろく、一度飲んでみたい、どこかでつくっていないか、パソコンで検索してみようと。そして葛巻の農家の高齢者が一番うまかったと言っていた「粟どぶろく」を検索してみた。
 そしたら何と、東北でつくっていた。秋田県横手市で「どぶろく特区」を8年前につくり、市内の山内地域大松川集落では「粟どぶろく」をつくって地域の特産品にしているとの記事が出ていたのである(注7)。横手には何度となく行っているのだが、山内には行ったことがなく、定年になってからは研究者を廃業したので横手に行くこともなくなっていたため、こんな情報はまったく知らなかった。
 山内地域は奥羽山脈の山麓にあり、その昔は風土に適した粟の生産が盛んで、粟からつくられた清酒を神事のお供え物として用いていたほどだったのだが、近年は耕作放棄地が増加、それに危機感を抱いた農家がそれに歯止めを掛けようとその粟に着目、耕作放棄地に粟を栽培し、それを使った「粟どぶろく」をはじめとする加工品の製造販売に取り組んでいるというのである。
 そこで早速、前回の記事にも登場してもらったNK君(現在秋田に在住)に聞いてみた。そしたら山内には調査研究で何度か通っていたが、調査は別の集落で大松川ではなかったこともあり、粟どぶろくのことはまったく知らなかった、早速知り合いの市役所の職員の方に聞いてみて手に入れる、それをいっしょに試飲しようとのことだった。
 翌日NK君からメールがきた、
 「昨年粟の不作により販売はされてないとのこと、農家は自給用に持ってるかもしれません。市役所の方から紹介いただいた農家に当たってみますが、なかったらすみません」。
 やむをえない、来年まで待とう、私も後1~2年くらいは生きていることができるだろうなどと思っていたら、3~4日過ぎてまたメールが来た。
 「Sさんという農家の方から入手できそうです。ただ、一昨年仕込んだものだそうです。その方は、仕込んだ後にドクターストップで酒を禁止され、ずっと飲めないまま冷蔵庫に残っていたとのこと、酒好きとしては笑えない冗談です」
 まったくその通り、Sさんとおっしゃるその農家の方の不運に乗じて試飲という運を私どもが得てしまうことはまことに申し訳なく、早い回復を祈るしかないのだが、ともかくそのご厚意に甘えて先日NK君が横手まで受け取りに行き、粟と米のどぶろくを1本ずついただいてきた。そして、それを比較対照する試飲会を仙台の拙宅でST君(前にも登場いただいている山形在住の農経研究者)といっしょに開催することにした。

 茶色の四合瓶に入った『粟道楽』という商標をつけた粟どぶろく、それと緑色の瓶の『ふきだまり』とのまさにぴったりの名前の普通の米のどぶろく、この両者を比較しながら飲ませてもらった。ともにどぶろくだけあって真っ白、アルコール濃度も15~16度だったが、粟どぶろくはちょっときつく、すっきりしており、米どぶろくはやわらかく、まったりしていた。それぞれの味でともにうまく、どっちがいいとかはなかなか言えないが、私はどちらかといえば粟派、ST君は米派、NK君はどっちも派のようだった。家内のつくった山形風の芋煮と菊の花のおひたしをつまみに二種類のどぶろくをおいしくごちそうになりながら、横手山内の農家Sさんから教えてもらってきた次のような話をNK君から聞かせてもらった。

 耕作放棄地対策で粟を作りはじめたちょうどそのころ、横手市が「どぶろく特区」の認定を受けた。そこに目をつけたのがかつて杜氏をしたことのあるSさんだった。粟の酒とかどぶろくなどの製造技術は地域にはもはや残っていなかったのだが、粟もデンプンだし、どぶろくができるのではないかと考えたのである。そして実が比較的大きいモチ性の品種の種を岩手県の大槌町から分けてもらった。粟100%で仕込もうとしたが、粟は粒が小さいので、蒸す過程で蒸気がまんべんなく通らずうまくできなかった。いろいろ試して粟に米を混ぜて仕込むことにした。意外性もあり、米とはちょっと違う香りもあって評判は良く、かなり売れた。「人生最後の道楽」と思って始めたことなので、儲けはなかったとのことだが。ところが昨2017年は鳥害で粟がほとんど収穫できず、仕込みができなかった。また鳥害にあうかもしれず、自分も身体が弱くなったこともあり、今年は作付けしなかった。
 ということで、偶然残った一昨年製の一本を私たちがごちそうになれたのはまさに僥倖だったのである。
 Sさんは最後にこう言ったという、
 「来年の作付けも厳しいと思う。誰かがやってくれたらと思うが、今のところやる人はいない。きっと作る人はいなくなるだろう。楽しかっただけに悔しい」。

 私たちも悔しい、悲しい、寂しい。何とかこの山内地区に新しい伝統として特産物として粟を、粟どぶろくを残し、発展させ、それを起爆剤として過疎化から脱却できないだろうか。
 ここまで農山村を追い込んだ政治経済の在り方を憤りながら、2本のどぶろくを飲み干し、さらに二次会にと夜の街に繰り出し、翌日の私を二日酔いにさせた2018年の秋の夜だった。

(注)粟どぶろくの仕込み開始です!―食農ブログ 秋田県横手市―
  syoku-yokote.jugem.jp/?eid=482
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プロフィール

酒井惇一

Author:酒井惇一
元・東北大学農学部教授
元・東京農業大学生物産業学部教授
現・東北大学名誉教授

 本稿は、昭和初期から現在までの4分の3世紀にわたる東北の農業・農村の変化の過程を、私が農家の子どもとして体験し、考えたこと、また農業経営研究者となってからの調査研究で見、聞き、感じたことを中心に、記録したものである。

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